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この場所の物語
白濁した湯が岩の間からわき出て、硫黄の匂いがすこしだけ鼻をくすぐる、そんな七味温泉の朝は、ゆっくりはじまるんですよね。明治から2軒の旅館だけが湯を守ってきた場所で、松川渓谷の水音を聞きながら、ただ湯につかっている時間というのが、ふだんの暮らしのなかでいちばん遠い場所みたいで、いいなあと思うんです。
一茶館には、小林一茶の遺墨が手の届きそうな距離に並んでいて、江戸の俳人がこの山の村を歩いていたんだということが、木目込み人形の細工とともに、すとんと腑に落ちてくるんです。俳句を知らなくても、あの小さな文字の息づかいを見ていると、なんだかこの村の静けさと同じ温度だなあと感じる。
長野電鉄の須坂駅からタクシーで山を登ってくる道すがら、上信越高原の稜線がすこしずつ近づいてくる感じが、「来たな」という気持ちにさせてくれるんです。信州高山温泉郷に宿をとって、PCを閉じて、雷滝や八滝の水音を聞きながら散歩する、そういうふだんとちがうリズムを、この村はごく自然に差し出してくれる。
長野県高山村に泊まる