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この場所の物語
坂道に足をのせると、この町が山を削って作られてきたことが、すぐにわかるんですよね。木曽川の流れに沿って段丘が重なり、その上に中山道の宿場の記憶が、いまも建物のかたちや石畳の感触として残っている。栗きんとんや五平餅が、ふだんの暮らしの棚にさりげなく並んでいるのも、この土地の食がよそ行きじゃないことを教えてくれます。
かしも明治座や蛭子座という木造の芝居小屋が、いまも現役で使われているのが、すこしふしぎでいいなあと思うんです。加子母歌舞伎や蛭川歌舞伎の保存会が、舞台を続けている。観に行く、というより、その地域の人たちが自分たちのために続けてきた、という感じがして、そこにいると、文化というものの手触りが変わってくるんですよね。
苗木城跡の岩の上に立つと、木曽川と山地の広がりが一望できて、なぜここに城を築いたかが体で納得できます。中津川温泉や付知峡倉屋温泉といった湯は、派手な看板もなく山のなかに静かにあって、一日の終わりにPCを閉じて向かうのに、ちょうどいいぐあいの距離感なんです。東濃ひのきの香りがどこかに漂うこの町は、長くいるほど、坂の角度や木の匂いが、自分のなかに刻まれていく場所だと思います。
岐阜県中津川市に泊まる