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この場所の物語
尚仁沢の水は、飲んでみると、すこし驚くほど柔らかいんですよね。名水百選に選ばれた湧水が日量65,000tも湧き出す土地というのは、ちょっとふしぎな実感があって、道の駅湧水の郷しおやの農産物直売所でヤーコンやスプレー菊を手に取りながら、ああ、ここの暮らしの底にはずっとこの水が流れているんだなあ、と思うんです。
高原山の裾に広がる山林が町域の大半を占めていて、日光国立公園の一部でもあるこの山は、歩いているとその静けさが、どこかじぶんの呼吸を整えてくれるぐあいがあります。国道461号を走ると、丘陵と山塊のあいだを縫うように道が続いて、宇都宮からそれほど離れていないのに、ふだんの生活の密度がすっと薄くなる感じがするんです。
平安末期から鎌倉初期にかけて刻まれたという佐貫石仏は、岩肌に像高18.2mの大日如来が彫られていて、その前に立つと、この場所に人が長いあいだ手を合わせてきた時間の重なりが、すこし見えてくるような気がします。弘法大師の伝承が807年まで遡るこの地の信仰の跡と、湧き続ける水と、山の静けさが、ここにしかない層をつくっているんだなあ、と思います。
栃木県塩谷町に泊まる