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この場所の物語
掘割の水面が、建物の影をゆっくり揺らしているんですよね。柳川の街は、江戸時代に張り巡らされた水路がいまも生きていて、川下りの舟が通るたびに、石積みの岸がすこし違う顔を見せる。
うなぎのせいろ蒸しの匂いが路地に漂う昼どき、旧戸島家住宅の数寄屋の縁側で、ぼんやり水を眺めながら仕事のことを考えたりできる、そういう場所なんですよ。西鉄柳川駅から福岡市まちに出るのに、それほど時間もかからないから、街と水郷のあいだを行き来するふだんの暮らしが、わりと自然に成り立つんです。
有明海では海苔の養殖が営まれ、干拓地ではい草が育ち、中島や両開の漁港では漁業の時間が続いている。立花氏庭園の松濤園を歩くと、柳河藩からつながる時間の厚みがじんわりと伝わってきて、さげもんや白秋祭のような祭事が、その暮らしをいまも彩っているのがいいなあ、と思うんです。北原白秋が育ったこの水の街は、来る人それぞれに、すこし違う水音を聞かせてくれる気がします。
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