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この場所の物語
荒湯の湯気が、山の斜面を白くけむらせる朝というのは、なんだかそれだけで一日の始まりとして十分な気がするんですよね。湯村温泉の湯は源泉がまちなかに湧いていて、ふだんの暮らしのすぐそばに熱いお湯がある、そういう土地です。七釜温泉や佐津温泉は穴場として知られていて、温泉郷のなかでも、もうすこし静かな時間をさがしたい人には、ありがたい選択肢がある。
浜坂漁港から水揚げされるホタルイカや松葉ガニは、この町の食卓の話をするときに外せない固有名詞で、加藤文太郎記念図書館や山陰海岸ジオパーク館のような施設が、暮らしのなかに学びの場としてひっそり根づいているのもいいなあと思います。日本酒「文太郎」という名が登山家の名前から来ているというのも、この土地の記憶の重ね方が、ちょっとおもしろい。
海と山のあいだで豪雪に慣れながら生きてきた土地の、どこかゆるぎない落ち着きが、山陰海岸を歩いていると伝わってくるんです。大阪から高速バス「夢千代号」でたどり着けるという事実も、遠さと近さのちょうどいい加減を示していて、ここに拠点を置いて考えてみようかな、という気持ちを、静かに後押ししてくれる。
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