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この場所の物語
鋳物の型を起こす仕事は、土を練るところから始まるんですよね。その土の記憶が、川口という街にはまだ残っている気がします。荒川と芝川が平らな地面を静かに区切り、JR川口駅を中心に高層マンションが立ち並ぶいまも、街のどこかに、重いものをつくってきた手つきのようなものが漂っている。
旧田中家住宅の洋館と和館と文庫蔵が、日本庭園を挟んで並んでいるのを見ると、ふだんの暮らしの積み重ねがそのまま文化財になった、というぐあいで、おもしろいなあと思うんです。麦味噌を仕込んでいた土地の産業の厚みが、建物の佇まいにもにじんでいる。
東京に面しながら、川口宿や鳩ヶ谷宿として街道沿いに人が行き来していた時代の層が、ちゃんと足元に残っている。駅が九つもあって、どこへでも出やすいのに、街そのものはわりと静かに自分のペースで立っている。1964年の東京オリンピックで使われた聖火台を、この街の鋳物師たちがつくったというのも、なんだかすこし、じわっとくる話なんですよね。
埼玉県川口市に泊まる
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